「華!!」

私の祈りが通じたのか、大通りの側から誰かがかけこんできた。
姿を確認しなくても、私を呼ぶその声でわかる。光一さんだ。光一さんが来てくれた。

光一さんは新庄にとびかかるようにして、私から引き離した。
ふいをつかれた新庄が、ゴロゴロと道路に転がった。光一さんは私をかばうように、新庄の前に立ちはだかる。
よろよろと立ち上がった新庄は完全に錯乱状態だった。

「邪魔するな。彼女は僕の恋人だ、返せ、返せよ!」
ジーンズのポケットをゴソゴソと探っていたかと思うと、突如として私たちに突進してくる。新庄の右手には、小型のナイフが握られていた。
それに気がついた私と光一さんは同時に息をのむ。
奇声をあげてナイフを振りおろす新庄から守るために、光一さんは私を脇の植え込みに突き飛ばした。

その瞬間、私の視界が大きくぶれた。ようやく焦点があって、目にしたものは、もつれあう光一さんと新庄の姿。
そして、光一の頬を流れ落ちる鮮血だった。

死。人生ではじめて、その言葉が実感をともなって迫ってくるのを感じた。

「い、いやー!!」
ようやく声が出すことができた。にもかかわらず、それは知らない誰かの声のように聞こえた。
目の前の現実を、どこか別世界の出来事だと思いこみたかったのかもしれない。

新庄の奇声と私の叫び声で、あたりには野次馬が集まりはじめていたけれど、私はもう意識を失ってしまっていた。