「……知らないからね?」


ほのかに赤くなった顔を上向けて、沙耶は唇を尖らせた。


「どうなっても、本当に……」


「うん」

沙耶が好きな人とは、誰なのだろう。


何でもいい。誰でもいいから。


この気持ちにすべてのかたをつけたい。
報われなくてもいい。


前世のようになっても、彼女が幸せであるならば。


―…生きていてくれるならば。


夕蘭が死んだと聞いたとき、言い知れぬ思いが胸を引きちぎった。

守れなかった。

その事実が、俺を苦しめた。


守りたかった。次こそ。次、こそ。


何度も願い、すべてが終わった日。


主が帰ってくる場所がなくなり、怖くなった。


反対した。それでも。


同じように愛しい人の魂を縛られ続けるのは、耐えられないのだと、かつての王は言った。


気持ちはすごく分かった。


ほとんどの者が愛しい人を運命のせいで喪っていたから。


こうして、生まれ変わっても―……


「相馬」


腕の中で、沙耶が何かを言った。


「……なんだよ。聞こえない」


沙耶は少し背を伸ばして、相馬の耳元で。


「ありがとうね。やっぱり、相馬は優しい」


はにかむ。


“私に命を分けてくれて有難う”と。


「……っ」


愛しい。


『大好きだよ。草志』


かつての姿が重なる。


「わっ……苦しいよ、相馬」


ずっと、この腕の中に。


閉じ込めて、すべてを自分のものにして。


他の男になんか目をやる暇もやらず、愛したい。


「変な、相馬……」


沙耶は一言そう呟いたきり、何も言わなかった。


好きなやつのことを考えているのか、それとも、他のことなのか。


気になったけど、それは相馬が干渉することではない。


お互いに線を引かねば。


(でも、もう少しだけ……)


時が来たら、手離す。


ちゃんと、区切りをつけて。


だから。せめて、今だけは。


俺が自分に自信をもって、過去の自分に勝ち、自分らしく生きられるようになるまでは側にいて欲しい。


―…例え、それが自分勝手な願いだとわかっていても。