春色のletter


目の前を色のないたくさんの人たちが流れていく。


それぞれを抜き出せば、それだけの人生があるはずなのに、私にはただのエキストラ。


左から歩いて行く、色のある私。


右からは色のあるハルが歩いて行く。


色のないエキストラの中で、私とハルだけが鮮やかだった。


私たちは、気が付かずにすれ違う。


(気付いて!)


心は叫んで手を伸ばす。


でも、二人は止まらない。


そのまま一度近づいた距離はどんどん離れて、そして色は見えなくなった。


私の伸ばした手先が宙を泳ぐ。


その手を胸元で重ねた。


少し、涙が零れた。




私はその涙を手でぬぐうと、駅の方へ歩き始めた。