春色のletter

私は、本田さんにお礼を言って帰ろうとした。


立ち上がった時、彼が思いついたように私を見た。


「今夜はうちに泊まって行きませんか?」


「え?」


彼はにこっとして私の返事を待った。


そう言われて断るのも失礼だし、明日は土曜日だし、他に何か話を聞けるかもしれないと、ご招待を受けることにした。


まだお昼をちょっと過ぎたばかりだったので、まず、見学センターのレストランで自社ワインを使った自慢のビーフシチューをご馳走になり、その後は本田さん自らが、近くの関係ありそうなところや、史跡を車で案内してくれた。


夕方近くには、例の温泉にも連れて行ってくれた。


(これは佐伯さんには内緒ね)


陽が傾いてから本田さんの家に行った。


工場から車で15分くらいのところだった。


葡萄畑の中にぽつんとある庭先が広く、納屋もあって、農業もやっているような家だった。


「諏訪山酒造が潰れた時にちょっと葡萄農家の真似事を始めましてね」


本田さんが頭をかきながら言った。