仕方なく、教室で絵里を待っていた。
何もせずに待っていた私は、あの時、何を考えていたのだろう。
「お待たせ~」
「どうだった?」
「うん、楽しそう。サックスにしたよ」
そう言って、鞄からサックスの教本を取り出して見せた。
「サックス?吹けるの?」
「まあ、何とかなるでしょ♪」
絵里の機嫌が、かなりいい。
「で、それだけ?」
「あ、えっとね、そのサックスを教えてくれるって言う先輩が、ちょっとね」
「ああ…なるほど。格好いいんだ」
「…うん♪」
「そかそか。良かったね」
私は軽くため息をつきながら言った。
「うん♪」
彼女も大人への階段を上り始めたってことらしい。


