だからって、簡単に諦めれるものでもなくて。
「振られることはわかってたよ。有馬くんが本気でユズちゃんのこと好きなのも知ってた。ずっと見てたし」
「うん」
「でもだからって、諦めないっ!」
「おぉ。ミスちゃん結構肉食なんだね〜」
だってもう、好きだって、好きすぎだって思っちゃったんだもん。
「絶対に、私と付き合いたいって、有馬くんの口から言わせてやるもんね!」
「へぇ〜」
見下すようその笑い方にさえキュンとして。
こんなに間近で彼を見て、改めて惚れる。
───ガタッ
突然、椅子から立ち上がった有馬くんは、私の横を通り過ぎて、そのまま音楽室を出ようとした。
諦めないって、どうするのよ私。
そう、自分の言ったセリフを恥ずかしくなって後悔した時────。
「じゃあ、落とされるの楽しみにしてるから……咲菜」
彼は少し意地悪に片方の口角を上げて笑ってから、音楽室を後にした。
「っ……!!」
単純なのかもしれない。
笑われるのかもしれない。
バカだって言われるかもしれない。
けどそれでもいい。
今日────────。
初めて彼に、
大好きな彼に、
「さ、咲菜って…言った…」
名前を呼ばれた。
それだけで、
この世界で誰よりも幸せものだって思えるくらいすごくすごく嬉しくて。
「絶対、落とすもんっ!」
月明かりに照らされたピアノの横で、
ごちゃごちゃの感情になった涙を流して、
久しぶりに
ありのままの自分で思い切り笑えた気がした。
───end────



