「だって、いきなりだし…」


パニックである。


「…わかんないなら教えてやるよ」


いつのまにか、低くなったその声で、

いつのまにか、細く大きくなったその指で、


芽郁は、クイッと私の顎を持ち上げると、


一瞬のうちに、


私の唇に


自分の唇を重ねた。


こんなことをできる幼なじみを私は知らない。


いつのまにか、芽郁が大人になったことを、


今更気付かされて、


ちょっと寂しくなって─────。


心臓の音は増してうるさいくせに、頭はいたって変に冷静で。



「…いや、そんなに嫌かよ。泣くとか」


顔を離した芽郁に指摘されて、初めて自分が泣いているのに気付いた。


違う。


違う。


違う。


違う。


あの日のキスだって──────。


今だって───────。


嫌だなんて、少しも思わなかったんだ。


「違うの芽郁っ」


また彼に向かって、彼の名前を呼べることがこんなに嬉しいことだったなんて。