「猫、起きろー。遅刻するぞー?」
「んっ…?って、嘘っ!?」
私は日課の早起きをやり過ごした。どうやら夜、乙女ゲームに熱中しすぎたらしい。手にはゲーム機が握られたままだ。
「…猫。おいで?」
彼は私に椅子に座るように指示する。
「い、いや…!」
「悪戯はしないよ。この前のお礼。」
私は彼の前に座る。白は優しい手つきで髪をときほぐす。髪が櫛でさらさらになっていく。
「本当に猫はあだ名通りだな…。」
「え?あだ名?」
私にあだ名なんてあったのだろうか。私は首を傾げる。けれど彼はその反応をスルーする。何も言わない。
「白、教えてよ。なんていうあだ名?」
「…怪奇トイレの花子。」
「えっ!?嘘だ!!」
私は確かに髪が黒い。けれど幽霊扱いは私でも認めたくない。
「うん。嘘。」
どうやらごまかすつもりのようだ。私は白の態度に不満があったが、こうなったら白は何も語らないので諦めることにした。白は私の髪が終わるとご飯の支度の手伝いの為か部屋を出て行った。
(白はいつものように接してくれる。といっても白王子の方が若干強いだけで意地悪が減った。)
私はカレンダーを見る。すると今日は委員の日なのだとわかった。
「と、いけない。今日は委員だ。気合い入れないとっ!」
そう。今日は木曜日。山口君との委員の日。
(けど…。どうして?白のことがとてもきになる…。)
私の中で山口君の存在は小さいものになっていた。鏡に映る私の黒い髪はいつもより輝いて見えた。
「こっちは終わったよ。東雲さんはどう?」
「私はあともうちょっとかな…。」
「わかった。あっ、『黒猫とミーシャ』だ。」
「あ、知ってる!黒猫のニルが私大好きだったんだ。」
私は山口君に話しかける。山口君は私と黒猫を見比べる。
「どうかしたの?」
「ん?ああ、この猫が東雲さんのあだ名通りだなって。」
「あだ名?…、あ、それ!私のあだ名って何!?」
今朝白が誤魔化したやつだった。山口君は私が知らないことに少し驚いた後、別に隠すものではないらしく答えてくれるみたいだ。
「昔、中学生のときに東雲さんって少し有名だったんだよ。」
「え?私が?」
「うん。白いカーテンに揺れる黒髪。猫のような目。静かに本を読んでる様がどこか神秘的で一部の男子から人気があったんだ。それで、あだ名は『黒猫』って。」
私は少し驚いた。まさか、男子から需要があったとは思わなかった。私の黒髪は現代では好感を持てるものではなく、むしろ不気味だと思われるものだと思っていた。第一に如月の人気が圧倒的だった為か、私に需要があるとかそんなこと露にも思わなかった。
「…知らなかった。」
「あー。でも、八王子君が転校してきて東雲さんと仲良しだったからカップル説が飛びまくって大体の男子が諦めたんじゃないかな。」
それまた意外だった。確かに白とのカップル説なんてものがあった。しかし、思いの外その説はしんじられていたのだろう。
「まあ、僕もその中の一人だったわけだけど。」
「えっ!?」
私は驚いて振り返る。
「…あっ!?…えっと。僕あっちの方へ行ってくるね!」
彼は顔を真っ赤にしながら去っていく。
(…不思議。少しドキドキしているけど前のときよりは落ち着いている。山口君からのあんな言葉にそこまで喜ばないなんて…。)
私は胸から手を離して作業を続けた。図書室に白はいない。白は不思議だ。気づけば側にいる。学校帰りも側にいる。私が遅くなったら私のことを待ってくれている。
(そういえば白は私を待っている間に何してるんだろうか。)
やはり定番の趣味をしているかんじなのか。
(…あれ?そういえば白の趣味ってなんだ?)
私は頭を傾ける。出てこない。おかしなことに私には皆目見当もつかない。
(待って!幼なじみっ!私がわからないでどうするの!?ああ、えーと、そう!私虐めっ!…ってそうじゃない!…えーと。)
私は本を抱えた。私と同居してから彼の部屋に入ったことはない。鍵があるからではない。
(鍵だってお父さんが『娘の部屋にのこのこはいっていいものではなし!!娘も男の部屋には入ってはならず!男のロマンの時間を尊重せよっ!』とか訳のわからないことを言ってお母さんにチョップをくらってたな。)
あの時のお母さんの技:市子チョップは凄まじい破壊力だった。お父さんはドリルを持ったまま気絶していた。
(…ふむ。男のロマン…。私と同じで、ギャルゲーとか?いや、白はもてもてだ。ゲームじゃなくてもしかしたら、彼女とかいただろうし…。私は白をあまり知らないんだ…。)
ズキッ
「っ!」
胸はいたむ。私ははっとする。もしかしたら幼なじみを取られるとか思っているのかもしれない。
(違う!白は物じゃない!)
白は幼なじみだ。彼が優しいのは私が幼なじみで、居候してるから。意地悪してくるのは楽しいから。
(でも、白はキスが初めてそうではなかった。きっと…)
彼女と…したことがあるんだ…。
「いやっ!」
私はバランスを崩し、机に置いてあった本を倒していた。本は床に次々と落ちていく。
(私は白に何を望んでいるんだろう。彼はきっとこれから先も幼なじみとして側にいてくれる。ならそれでいいはずだ。)
私は本を見つめる。
(…私は幼なじみだから側にいれる。)
私はしゃがみこんで本を拾っていった。

