朝からの私は不機嫌だった。有理香に理由を聞かれたが私は言ってはいけない約束から言えずにいたし、彼のギャップがひどい。外に出た瞬間彼の鋼鉄白王子スマイルが炸裂した。…私が嫌がるのを嬉しそうに。あまりの神々しさに学校の女子はいつも以上に目にハートを浮かべていた。
「猫。ほら、ノート写させてもらったから写しなよ。」
「…いい。私は有理香ちゃんのを写すから。」
すると、白は悲しそうな顔をする。彼のその顔はクラスの何人かに同情されていた。さすがは白王子。主人に尽くしたつもりが褒められなかったために、悲しそうな顔の犬のような表情をするだけでこの視線…。
(この嘘つきがあぁ!)
私は心の中で叫んだ。
(嫌々!だってこの視線!事情を知らなかったからこそのものだよ!?ひいていうならばそこの女子!私を悪者扱いしないで!っていうか本当はこっちが被害者だから!ゲームとかばれるわ、キスされるわ…!挙句にペットよ!?私の人権は果たして彼の前で存在するのか!っていうぐらい最悪なんだから!)
しかし、私の避難の目が止むことはない。むしろ時間が経つにつれてひどくなる。
「猫。僕…何か悪いことした?もし、そうならー。」
「…白。ありがとう。ノート写させてね。」
私は彼からノートをもらう。ノートはきちっとまとめられていた。
(したよ…。今まさにしたよ…。)
私は心から溜息をついた。彼は嬉しそうな顔をする。私が冗談で言った犬でもやってるのだろうか。女子は王子×犬な白を見て感極まってるらしい。
(最悪だ…。)
私は席に戻った。すると、すでに有理香が私に聞きたいことでもあるのか、私の方を向いていた。
「どうしたの?喧嘩でもしたの?いつもなら猫ってば嬉しそうにしてるじゃない。」
「…まあ、さすがに世話焼かれっぱなしなのは…性に合わないかな…と。」
「珍しい。猫がそんなこと考えるなんて。」
「そう?でも、白が私に構い過ぎるのはどうにかしたことがいいと思うけど。それに私だって…。」
(山口君と付き合いたいし…。)
最後まで言わない私の気持ちを汲んだのか有理香は会話を続ける。
「まあ、それもそうだけど。八王子君が彼女…か。想像出来ないわね。どんな美女かしら。それに、付き合っていたとかも聞いたことがないわね。」
(やっぱりそうだよね!)
「そういう噂って聞いたことある?」
「んー。猫と彼が付き合っているなんて噂はあったけど…。ないわね。猫の方が知ってるんじゃないの?中学生の夏とか。転校前の学校でお付き合いしてたけど別れたとか。」
「…さあ、聞いたことがないんだよね。」
私は有理香にそう返事をする。するとちょうどチャイムが鳴り先生が教室に入ってくる。私は教科書を揃えてノートを開く。相変わらず綺麗なノートだ。カラフルで読むことも苦じゃない。
私は授業中書き写していく。
(…ん?)
最後のページを開いた時、なにやら目立つように枠で何重にもされている箇所があった。
ー猫は警戒しすぎだよ?普段通りに甘えてきなよ?学校では何もしないから。
私はノートを勢いよくたたむ。すると周りからの視線をかんじた。私は周りに『虫がいたから』と言った。白と目があった彼のことを誰も見てないせいか彼は悪魔の微笑みを浮かべている。
(腹立つ!!)
私はまたノートを開ける。そしてシャーペンでノートに落書きを始める。
ー白の悪魔!変態!黒王子!私の人権返上しろ!あと、周りの人使って私に追い打ちかけるな馬鹿ー!!
私はついでに怒ってることを伝えるために怒っている私の絵を描いた。その後、私は一通り確認した。それを隣に渡して白の元へ届けてもらう。白とは席が遠い。後から渡すのがいいことだが…。白にも同じ気持ちを味わせるべきだ。
(さあ!怒れ!白王子の鋼鉄仮面外してみんなからびっくりされなさい!)
ノートは白の元へ届く。白はノートを開いた。
「……ぷっ。」
「「「…え?」」」
クラス中からの視線を、彼は集めた。まさかの怒るというより笑うということに私は驚いてしまった。
「あ、ごめん。思い出し笑い。」
「…そういうのはあとにしなさいね。八王子君。」
彼は先生に怒られていた。
(えっと。…作戦成功?先生に怒られたし…。)
私はそのまま彼の顔を眺めた。まさかのリアクションだったが…。
(そういえば白は昔から私の世話をしている。…もしかしたらそれでちょっとそっとのことでは揺らがない…とか!?)
私は大波にうたれた気分だった。まさかの事態だ。白の心は深かった!私は自分の幼稚さに悔しくなってしまう。すると彼は私を見て口を動かす。
ーーば・か・?
そして、彼はまたにやっと笑う。しかも勝利の笑みだ。
(むかつくーー!!)
私は苦汁をすすったかのような表情をしていた。
「この本はそっちの棚にお願い。」
「わかった。…あの、付き合わせてごめんね。やっぱり私一人で…。」
「ううん。気にしないで。僕が好きでやってるんだから。」
「ありがとう。あれ、その本って賞をとったやつだよね。どんな物語?」
山口君は笑顔で言ってくれる。今は昼休憩。私と山口君は、図書室にいる。昨日私の代わりに他のクラスの人がやってくれたらしい。私はお礼と今日の当番をやることを願い出た。そして、山口君が偶然通りかかり『僕も昨日助かったから』と言って手伝ってくれることになった。
「この物語の相手の愛が重くて主人公が苦労する話なんだ。若いのにストーカーとか脅しとか…。東雲さんはこんな人どう思う?」
「全くもってこの世から駆除されるべきね。」
私はつい本音で答えてしまった。私はふと気がつき彼の顔をみる。流石に好きな人の前で人を駆除とかは普通言わないものだ。言ったが最後好きな人に引かれるだろう。
「あっ、ちがっ…!」
「あはは。だよね!僕もそう思うよ。世の中のためにならない。」
彼は笑いながら本を棚に並べていく。
(よ、よかった!多分セーフだ!)
私はほっとした。
「あ、いた。猫、探したよ。」
そこに白が現れる。
(げっ。)
私は白を撒いていた。何故ならば…。
「あれ、八王子君。東雲さんに何か用事?」
「うん。にしてもどうしたの?当番今日だったっけ?」
白はゆっくりと近づいてくる。
「ああ。昨日他のクラスの人が手伝ってくれたから二人でお礼返しをしてたんだ。ね、東雲さん。」
「う、うん!!そう!」
私は山口君に頷く。
「…へえ。だったら僕も手伝うよ。」
「え。」
白は腕まくりを始める。
(あれ?白、私の昨日のカミングアウトスルーする気なの?)
「それは有難いけど…でも、八王子君は委員じゃないし…。それに僕と彼女がいれば大丈夫だから。遠慮するよ。」
山口君は丁寧に断った。
「大丈夫だよ。僕は猫の保護者でもあるんだから、それに昨日帰ることをすすめたのは僕だし。手伝わせてくれないかな?」
山口君はそれなら…。と、納得し引き下がる。
(図書室ぐらい心の癒しが欲しかった…。)
私達は三人でもくもくと本を棚におさめていく。すると生徒が一人来て貸し出しを頼んで来たので、山口君が受付にいく。私と白だけになる。私は何冊かの本をとって別の棚にいこうとする。
「そんなに俺と一緒に居たくないのかよ。」
「…当たり前じゃない。」
「ふーん。でも、逃げるのは許せないな。」
「猫は自由奔放なの。たとえペットにされてもね!」
彼から逃げるように私はそのコーナーを離れた。
(許せないのはこっちよ。私は物じゃない!!)
私は結構歩いた所で棚の隙間から彼をちらりとみる。彼は本を棚に入れている。
(あれ?)
何故か彼の顔は悲しそうに見えた。

