白王子と黒猫

「………んっ。…?」
私は目を覚ました。部屋はやけに暗い。

(あれ?今何時だろ…?)

頭は妙に冴えている。時計を見つめる。夜の6時半ぐらいだった。

「えっ…。6時半!?」
私は急いで下に降りる。そこには居眠りをしている白がいた。エプロンをつけたままソファで横になっている。ソファの周りにはきちっとたたまれている洗濯物。きっと私が寝ている間に今日の家事の大体を終わらせてくれたのだろう。

(ありがとう。白。)

私は彼の額を撫でる。すると彼は目を覚ました。
「あれ?猫、もう起きて大丈夫なの?」
「残念。もうじゃなくてやっとだよ。6時半。かなり寝ちゃったみたい。白、家事やってくれてありがとうね。」
「…ん。別にいいよ。気にしないで。それより作っておいた雑炊、一緒に食べよう?椅子に座れる?」
「うん。平気。」
「わかった。じゃあ、ちょっと待っててね。」
そう言って数分後私の目の前には絶品の雑炊があった。私はほっこりとした温かさのあるそれをほくほくとしながら食べていた。白はもう一品作るみたいで料理をしている。彼は料理が得意だ。私が料理をすると細かくなり時間がかかるので私と彼が二人だけの時は彼がしてくれることになっていた。 彼は慣れた包丁捌きで大根を切っていく。私は雑炊に満足すると、ふと彼に隠し事をしていいものなのか悩み始める。

(こんなに心配してくれてるんだから。それに白は幼なじみ。応援をしてくれるだろう。今なら両親はいない。白に山口君のことを伝えてみようかな。)

私は彼をまじまじと見つめる。彼は私の様子に気がつき小首を傾げる。
「あのね。私、白にどうしても伝えなきゃいけないことがあって…。」
彼の動きが止まり、こちらをみてくる。
「…へえ。そうなんだ。どうしたの?」
「ーー私、山口君のことが好きなんだ。」

ーダンッ

大根が宙でアーチを描きとんでいく。白が大根に対して勢いよくきったからだろう。とても綺麗なアーチだった。

「あ、ごめん。驚いてしまって。それで、彼のどこがいいの?」
白は大根を拾う。

(ふむ。良いところか…)
「真面目そうなところとか?」
「別にそんな人はたくさんいるよ。」
「本に関して気があうとか?」
「僕ともあってるよね。」
「や、優しい…とか!」
「僕と比べたらまだまだだね。」
「……。」
「……。」

部屋の中は静かになった。幼なじみが姑みたいになっていたことにびっくりだった。

(でも、白とは違う気持ちだ。彼のことがとても気になるんだ。)

「…と、とにかく!応援して欲しい…の!!お願い…!!」
私は精一杯の気持ちを込めてそう伝えた。すると、彼の顔は怖いものになっていた。

(えっ?)

しかし、その顔はすぐに変わる。いつもの彼の顔に戻る。

「……あー。かったりい。」

(………ん?)

私は耳を疑う。今の声はどこから聞こえたのだろう。私は周りを見渡す。
「どこみてんだ?馬鹿丸出しだぞ?ここには俺達しかいないんだし。」
「ばっ…!?」
白は手を組み目の前で私をみていた。
「えっ。……白?」
「何?そんなに現実から逃げたかったわけ?見りゃわかんだろ。おれしかいないし。」
私は口を開けたまま、彼を見つめる。
「えっと…。白、熱があったり…?私のがうつった?」
私は彼に駆け寄りおでこを触る。
「あるわけねーだろ。ばーか。あったらここで包丁なんてもってねーっての。」

(…だよね。)

「じゃあ、頭を打ったとか?」
「…あのな。だからその場合もここにいたら危ないだろ。」
「…その喋り方は冗談?ドッキリ?」
「…あのな。そのまま現実受け止めろよ。」
そういうと彼は私にデコピンをしてくる。

(………はああああぁぁぁぁ!?)

私は今にも崩れ落ちそうな気持ちだった。
「…つまり私が幼稚園児の頃から今日の今日までのあれらは嘘だったと!?」
「…あー。長かったな。結構疲れた。笑いも何度も引きつりそうになるし。猫は変わらずだったなー。」
彼は普段ならしないであろう包丁を指の上で振り回していた。
「なんでそんな面倒なことを…!?」
彼は私に振り向く。そして包丁を置いて近づいてきた。
「はあ?別に。楽しんでただけだよ。いつかはバラそうかと思ってたけど、タイミングが見当たらなかっただけだ。にしても、ひでー顔になってるぞ。」
彼は呆れたような顔をしながら私を見つめる。

「え、いや。だって、色々と衝撃的すぎて………。」
「ふーん。」
すると彼は腰を低くし


チュッ


キスをしてきた。

二回目のキスは不意打ちだった。一回めも不意打ちといえば不意打ちだが、ドキドキすることはなく、むしろ頭の混乱でキスの感覚がわからなかなっていた。何が起こったのかわからない気持ちでいっぱいだったからだ。けど、次第に、キスをしたのだと自覚し顔が赤くなる。その様子をみて彼は悪戯な、笑を浮かべる。

「な、な、何するの!?保健室のときといい…!なんでキスするのよ?!」

「へえ、猫は保健室のとき、やっぱり起きてたんだ。なんで返事してくれないわけ?如月ならするのに?酷いなー。」

私はどっきりしたために体が震えた。
彼はその私の態度を見てそれが返事だとわかったようで私の返事をみる。

「白だって…!私が寝てるあいだにキスするなんて…!そっちこそ酷いと思うんだけど!今のも…。」
「へえ。キス…ね。」
彼は意地悪な顔をする。


「……あっ、ふっ!?」

彼は私を引き寄せてまたキスをしてくる。私が驚くのもつかの間、彼の唇は離れた私の唇を追いかけるように口付けてくる。彼は顔の傾きを変えて私にさらにキスをしてきた。私の体は震え上がる。唇に滑りとした感触があり声をあげそうになるとそこからさらに温かい何かが入ってくる。そして私の舌に触れてくる。私はその異物な感触に驚いて逃げようと後ずさりをする。しかし、彼は私を逃がさないとでもいうように私の腰を強く引きつける。
「…んっ、んんっ!」
「ふっ。」
彼は私から唇を離した。私はやっと息ができると思って息をしようとする。しかし十分なほど息を吸うことはできずに彼の濡れた唇が私とまた重なり合う。突き放そうとするも彼はびくともしない。手は自由に動かすことができなかった。逆に彼は私の頭を押さえてくる。私は次第に頭が痺れるような感覚がするのを覚えた。
「……どう、俺とのキスは。刺激的だろ?これがキスだよ。」
私は腰が抜けてしまった。彼は私を抱き寄せながらゆっくりと床に座る。彼は硬直している私に耳元で囁く。
「……もっと、したい?キス。」
「…誰が…するか…!」
私は力を込めて精一杯彼を睨む。私の唇はわなわなと震えている。体は熱を持ち、息をするのも苦しい。彼は何ともないというような顔で私を見る。体はいまだに震えがとまらなかった。彼はにやっと笑う。
「いいの?彼だったらこんなキス、できないと思うけど?」
彼はにんまりと笑う。私は怒りをかんじた。

(人の初めてをとっておいて……!)

「お生憎様!私はそんなことを求めてなんてない!それに、白みたいな見境なく女子にキスする変態はこちらから願い下げだ!」
私は彼を押しのけて部屋に逃げるように走る。部屋の鍵を閉めて私は崩れるかのように座る。

(知らない人だ。男の顔をしていた。)

私は濡れた唇を触る。唇はいまだに熱い。

「…な、んで?」

色々なことに驚いた。彼の性格にもそうだが、彼がキスに慣れている様も。

(昔、付き合っていた人でもいたの?)

ズキッ

私の心はなぜかいたむ。

(彼はなんで本性を隠してたの?)

その女性になら見せたのだろうか。私の知らない顔も何もかも。

ズキズキッ

「……私は……。」
私はいつの間にか溢れる涙を拭おうとした。けれど止まることはなく、床に吸い込まれるように涙は落ちていった。