……何処だ、此処は。
建物の裏手に出てしまったようだ。
洞窟の壁に手を当てて歩いたら、必ず出られる、という子どもの頃読んだ本のせいではないが、なんとなく、建物の壁に沿うようにして、木々の陰をガサガサ歩いていると、こんな誰も居そうにない場所に、人影が現れた。
壁に背を預け、煙草を吸っている男。
真っ黒な髪と黒い瞳が印象的だ。
洸の顔を見ると、おや? という顔をし、
「いらっしゃいませ、津田洸様」
と言ってきた。
そんなに急ぐでもなく、携帯灰皿を出して、煙草の火を揉み消している。
えーと、と洸が言うと、
「この男前をお忘れですか」
と言いながら、佐野です、と洸の手を握ってくる。
「貴方の担当――
ではない、佐野一真(かずま)です」
……担当、入江さんですよねー、と思う洸に、一真は、
「どうされましたか、津田様。
今日は、えらくテンション低いですねー」
と言ってきた。



