わたし、結婚するんですか?

「でででで、でもっ。
 私は、なにもさせなかったって、言いませんでしたっけっ?」
が寝過ごしたニワトリのように叫ぶと、遥久は、

「キスもしてないとは言ってない」
と言ったあとで、

「いや……そうだ。
 なにもしてないことは、伏せておけばよかったな」

 どうせ、記憶はないんだから、と言い出した。

 鬼畜か、とドアに張り着いたまま、固まっていると、遥久は、口にキスしかけてやめ、額にそっとキスしてきた。

「今日はこれくらいにしといてやる」

 そんな捨てセリフを残して、帰っていった。

 遥久の姿が廊下から消えても、靴音が消えても、洸は、しばらく、ぼんやりそこに立っていた。

 やがて、無言で部屋に戻る。

 ドアを開けると、ととととっ、と軽い足音がして、チャトランがやってきた。

 夜は瞳が大きくて、より可愛く見える。

「……チャトラン、エサ、食べた?」

 なんとなくそう訊くと、自分がチャトランという名前だと一発でわかったのか。

 それとも、エサ、という言葉に反応したのか、チャトランはエサ鉢に向かい、走っていった。