昼間、葉山とエレベーターで一緒になったとき、お母さんが戻ってきてるって言おうかな、と洸は少し迷った。
だが、言ったら、一緒に会わせろと言い出すだろうな、と思う。
たぶん、ほんとは仕事の用事で会いたいと言っていたのだろうから、会わせてあげたいけど。
……まあ、お母さん、すぐには帰らないだろうから、明日言うか、と思っていると、葉山が、
「どうした、洸。
俺を見つめて。
俺を愛していた記憶が蘇ったかっ」
と言って、手を握ってくる。
「いや……たぶん、最初からないから、その記憶」
言ったあとで、そのセリフを噛み締める。
そうだ。
そんな記憶は、たぶん、ない。
私は記憶がない間もずっと課長が好きだったんだ。
今はそう思う。



