「あっ、いえっ。
 新郎は居ますっ」

 なにか困らせてしまったらしいと気づいて、洸は慌ててそう言った。

「あっ、そうなんですかっ。
 で、では、お名前をっ」

 式場側で聞いている人が居たら、落ち着け、お前ら、と思っていそうだな、と思う。

 今、此処でもそんな顔をして、こちらを見ている人が居るからだ……。

 いつの間にか、またデスクを離れ、側に来ていた章浩を見上げながら、洸はスマホに向かい、

「す、すみません。
 まだ、どちらかわからないんで」
と言ってしまった。

 はいっ!? と訊き返され、

「あっ。
 すっ、すみませんっ。

 また、新郎と着付けが決まりましたらご連絡致しますっ」
と意味不明なことを言って切ってしまった。

 不審な客だとキャンセルされなきゃいいが……。

 いや、結婚する予定は特にないので、キャンセルされても、別にいいんだが。

 いや、本当に、と思ったとき、なんだかわからないが、気持ちが、もやっとした。

「あっ、日付も確認すればよかった」
と既に切ってしまったスマホを見ながら叫んだが、言うと、余計に変に思われるかな、とも思っていた。