わたし、結婚するんですか?

「ああっ。
 そういう意味ではないですっ」
と言い訳をしながら、立ち上がる。

 遥久の近くまで行った。

「その……課長が帰られてからも、課長の気配とか匂いとか残っているので。

 ずっと一人で居るよりは、全然いいです」
と赤くなりながらも言うと、遥久は、ふっと微笑み、洸の手に触れてきた。

 うわーっ。
 こういうときの顔も好きだなー、と思ってしまう。

 遥久は洸の手を引き寄せ、おのれの膝に座らせる。

 自分を見上げている遥久の瞳が、本当に愛しいものを見ているように感じられて。

 目眩がするような……、

 不安になるような……。

 そのとき、一真の言葉が頭をよぎった。

『長い人生、ときには騙されてみるのも一興ですしね』

 遥久の顔を見ながら、洸は言っていた。

「……騙されるのは嫌です」

 ん? と遥久が自分を見る。