遥久から解放された洸は周囲を見回したあとで、そっと渡り廊下に出る。
よく考えたら、その方が怪しかったのだが。
それにしても、記憶をなくす前の私には、これが普通の状態だったのだろうかな、と洸は思う。
ラブラブじゃないか。
客観的に見て、そう思う。
なんだって、課長の記憶だけ飛んだんだろうな、と改めて思いながら、西館に行ったとき、一階の廊下の隅を曲がる見知った影を見た。
柔らかなシフォンのブラウスの下の、そのがっしりとした体育会系の肩幅には見覚えがあった。
……浜崎?
洸は足を速め、浜崎らしき人影が曲がった角を曲がり、西館ロビーに出たが、もうその人物は居なかった。
あっれー?
外に出たか、一階の渡り廊下の方に行っちゃったのかな? と思いながら、洸は事業部に入る。
「お疲れー、津田ちゃん」
と三田村という事業部の若い男性社員がノートパソコンを見たまま、声をかけてきた。



