「お疲れ様です。
社長に直接お渡しするよう、部長に頼まれたんですが」
と洸は、さも意味ありげに、その辺のクリアファイルを持ってきた。
秘書室に居たのは、秘書室長の佐野と、母親より少し下くらいの歳の女性秘書、酒木(さかき)だった。
「どうぞー。
今、いらっしゃいますよー」
と笑って酒木が立ち上がり、奥の社長室の扉をノックしてくれる。
「社長、人事の津田さんです」
と言うと、入れ、と中から若い男の声がした。
酒木が扉を開けてくれたので、彼女にも秘書室長にも一礼したあとで、再び、礼をし、中に入る。
扉も酒木が閉めてくれた。
中では社長の今井章浩(あきひろ)が顔も上げずに仕事をしていた。
まあ、そうして仕事している姿は、贔屓目でなくとも、格好いいな、と思いながら、
「おにーちゃん」
と呼びかける。
章浩は、書類を見つつ、スマホに入ったなにかを確認しながら、
「おにーちゃんよせ」
と言ってきた。
「お前だろうが。
コネ入社だと思われたくないから、俺と従兄妹だってことは隠しておいてくれと言ったのは」



