わたし、結婚するんですか?

 お前、俺をもてあそんだのか、とまで言い出す。

 いやいやいや、ちょっと待ってくださいよー? と思っていると、ちょうど廊下を歩いてくる遥久の姿が見えた。

 胡散臭げにこちらを見ている、その視線をたどる。

 遥久の目は、明らかに、葉山がつかんでいる自分の腕を見ていた。

 いやいやいや、ちょっと待ってくださいよー? と思っている間に、遥久は胡散臭そうな顔のまま、行ってしまった。

 ……ちょっと待ってくださいよー……と固まっている洸の横で、葉山はお構いなしに、
「まあ、なんでもいいから。
 お袋さん帰ってきたら知らせろよ」
と言ってくる。

「あ、あのー、でも、私、課長と結婚するみたいなんだけどー……」

 我ながら、魂の入っていないマヌケな声だな、と思ったのだが、いつもと変わりなかったようで、葉山は普通に訊き返してきた。

「課長?
 何処の?」

 遥久の姿はもうなかったが、彼の消えた方を見ていると、葉山は鼻で笑って言ってくる。

「まさか、悠木課長か?

 課長がお前なんか相手にするはずないだろ?」

 やっぱり、頭でも打ったんじゃないのか? と言ってくる葉山に、

 だよねー……と思いながら、洸はまだ腕をつかまれ、固まっていた。