「また来てね」と「ありがとうございました」を最初と同じソプラノで告げてくれた彼女。

お店を出る際にまたからんころんとベルが鳴って、春の匂いがするお店だと、外に出てから思った。



「……、持つの、変わるか?」



「ううん、平気。

それより、袋重くない? 平気?」



「お前男の力なんだと思ってんだよ」



仲良く、は、なれる気がしないけど。

椛に置き去りにされてからも舌打ちを零しつつ彼は「行くぞ」ってわたしに声をかけてくれたし、いまだって荷物のことを聞いてくれた。



根はすごく優しい人なんだと思う。

すこし微妙に距離が空いているものの、隣を歩いていたって何も文句は言われないし。



……ちょっと沈黙が気まずいけど。




「ねえ。……わたしのこと、嫌い?」



風に靡く臙脂を、ただ綺麗だと思う。

余計な感情も何も必要なく、ただ、綺麗だと。



「別にお前だから、とかで言ってんじゃねーよ。

今まで、あの人に近づいてくる女にロクなヤツなんかいなかった。……自分から近づいてくる女の自信ほど引くものってないだろ」



「……そうねえ」



「………」



「本気で好きなら、構わないけれど。

……きっと本気で好きだったら、どれだけ自分に自信がある女の人でも、自信をなくすもの」



自分の外面も、内面も。

下手すれば言動にすら、不安になる。相手と何気なく話す声の高さから、自分の浮かべる表情さえも。