白い外観に大きなガラス窓。

窓の上にあるシルバープレートには、『Juliet』の文字。同じくガラスのドアを押せば、からんころんと軽やかなベルが鳴って。



「いらっしゃいませ」



ふわりと綺麗なソプラノで、可愛らしい雰囲気の女性に迎えられた。

わたあめのような甘さを醸すその人は、どうやらまだ不機嫌らしい臙脂の彼とも、顔見知りなようで。



「あら、莉央くん。

ふふ。もしかしてその子が、昨日椛くんとルノくんが言ってた"女の子"かしら?」



「あー……まあ、そんな感じで」



「いつみくんが溺愛してるのね」



溺愛、は、されてないと思うけど。

出会ってまだ数日なのに、という気持ちは否めないものの、少なくとも姫として大事にしてくれている、ということは何となくわかる。




「ちょっと待っててね。すぐ持ってくるから」



そう言って一度奥へと消えた彼女。

もちろんわたしと彼の間に会話があるわけでもないので、ショーケースに並んだケーキを眺める。



ケーキ屋さんのケーキって、どれも美味しそうで決められないのはわたしだけだろうか。

ショートケーキにチョコケーキ、チーズケーキ、モンブラン、抹茶、タルト……と、それだけでも美味しそうなのに、季節限定のものなんかがあれば、とても悩む。



ある程度買うとはいえ、頻繁に食べるものでもないから、プチ贅沢をしている気分になるし。

食べたいケーキで悩むことの贅沢な悩みたるや。



「お待たせしました」



そうこうしていたら、彼女が『Juliet』のロゴが入った紙箱を手にもどってくる。

ひとまずわたしが、お礼を言ってそれを受け取った。



どうやらお代は先にいつみ先輩が払ってくれているらしい。

……なんだろう、とことん甘やかされてる気がする。