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「わたしが修学旅行のあいだ……
ちゃんと睡眠取ってね。あと、食事も」
深い夜の中で、まどろみながら。
彼に言えば、いつみ先輩は「ああ」とうなずく。その髪にそっと手を伸ばして、優しく撫でた。
「……普段、眠れないの?」
臆病になってても仕方ないと、やっと気づいた。
聞いてしまえばいいんだと思い切って問えば、彼は一瞬きょとんとして「いや……」と否定した後、その先に続く言葉をすこし悩んで探してから。
「眠りが浅くてすぐに目が覚めるだけだ」
結局上手く見つからなかったのか、シンプルにそう返した。
「……そっか」
やわらかい手触りの黒髪が、さらさらと指の隙間をこぼれていく。
心地良さそうに目を細めた彼は、「でも」とわたしの手をつかんで。薬指の指輪のすぐそばに、くちびるを落とす。
「お前がいたら、落ち着いて眠れる」
「……うん、」
「色々考えて寝室は別にしてたが……
今日からは、しばらく一緒に寝るか」
彼が、あえて避けていたこと。
そこに色々な意味が含まれていることには気づいていたけれど。一緒に、という言葉がうれしくて。
「……うん。一緒に寝ようね」
約束すれば、微笑んでくれる。
「おやすみ」のキスをして、彼の腕の中で眠りについた。



