『そんな仕事忙しいの?』



「忙しいっていうか……」



ちらりと、扉の閉まっているお風呂場を振り返る。

シャワーの流れる音だけは、未だに薄らと聞こえてきていた。



「……たぶん、眠れないんだと思う」



眠っても眠っても深く眠れないんだろう。

何かと言い訳をして彼が起きていることも知ってる。家の仕事をわざわざ無理して背負い込んでることも、あえて自分を追い詰めていることも。



……きっと。

あの人はプレッシャーや重圧、なんていう、肩の上に何かが乗った状況じゃなきゃ、生きていけない。



何もかも捨てた状態で、生きていけないから。

だから、わざと自分のことを追い詰めてる。




無理して欲しくないとは思うけれど。

その気持ちがわからないわけじゃなかった。



わたしは15年間、人質だったから。

目には見えなかったけれど、いろんなものが乗っていることを、なんとなくわかっていた。



でもそれは、みんなが手を貸してくれたから消え去って。

両親はもう、珠王の研究施設で何もなかったかのように生活しているけれど。



まだ不完全燃焼なものは、胸の奥に残っていた。

……きっとそれと、同じで。



「……この世界には、きっと。

彼が落ち着いて眠れる場所なんて、ないのよ」



酷だ。

言葉にすれば余計に重苦しくて、言ったのは自分なくせに逃げ出してしまいたくなった。



そんなこと、

誰かが許してくれるはずもなかったけれど。