『南々ちゃん準備終わった~?』



とろりと、甘い声が電話の向こうから聞こえてくる。

その場に弟妹たちが一緒にいるのか、向こうからはときおりそれらしき声も聞こえてきた。



「ふふ、さすがにもう終わってるわよ」



『まあ南々ちゃんはどう考えても慌てて準備するタイプじゃないもんねえ。

っつうか、いっちゃんいねえの?』



3月のとある日。

わたしたち2年生は、修学旅行を明後日に控えていた。



3泊4日で目的地は関西。

実は海外にはいくつか行ったことがあるけれど、日本国内は行ったことのない場所がほとんど。関西は初で、ちょっと楽しみだったりする。



まあ残念なことに、椛も莉央も学科が違う。

そしてみさとはクラスが違うし、同じなのは大和だけ。




「いつみ先輩なら、いまお風呂。

椛から連絡来たから、先に入ってもらったの」



『あ、風呂入るとこだった?ごめんな。

そういや莉央は、ぎりぎりになって準備してたぞ~』



知ってる。だって今日の放課後の時点でまだ荷物揃えてたもの。まあ財布すら忘れてなきゃどうにかなるだろうけど。

……でもいま公衆電話なんて見かけないからなぁ。



「……椛のキャリーケースはすごく綺麗に荷物が詰められてるイメージしかないんだけど」



『チビたちのお泊まりなんかも、

荷物詰めてやってるのは俺だしねえ』



「予想通りじゃないの」



もう莉央も椛に準備してもらえばいいのに。

……いや、それだと莉央が後で困るか。