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「ねえ、夕陽」
「ん?」
無事、王学の芸能科への入学が決まった彼。
合格祝いとお家デートを兼ねて、今日は彼の家におじゃましてる。ちなみに髪色は、知らぬ間にチェリーブラウンになっていた。
……黒髪がよかったのに。
なんてボヤいたら、ちょっと気まずそうな顔をして「ごめん」と謝った彼に、思わず笑った。素直だ。
「『赤沢夕陽』で通わなくていいの?」
それはさておき、実は気になっていた疑問。
新役員を決める1年のリストの彼の名前は『女王夕陽』になっていたし、彼の部屋に置かれた王学の封筒にもそう印字されてる。
赤沢じゃなかったっけ、と聞けば。
「ああ」と、漏らした彼は。
「親、再婚したんだよね。
俺仕事で忙しいし、兄貴一人暮らしはじめたじゃん。そしたら母さんひとりになる時間増えるし、やっぱ心配だからって」
「あ、そうだったの」
「ん。だからここ出て、父さんと兄貴が住んでた家に移り住む。
そんなに荷物ないから、大掛かりな引越しでもないけど」
へえ。そうなのか。
夕陽と夕帆先輩のお母様、何度か見かけたことはあるけれど直接お話したことはない。
今日もお出掛けしているみたいで、家にふたりだし。
なんて思っていたら、夕陽がじっとわたしを見る。
ちなみに彼の手元には俳優雑誌。
女子向けのそれには『Fate7』のメンバーも掲載されているけれど、彼のお目当てはそれではなく。
「……ってか、何この距離感。
なんでわざわざそんなに離れてんの?」