「莉央、」
その手をぎゅっと握り返す。
春まではまだあとすこしあるのに、花の匂いがするふたりきりの部屋で。
「……好きだ」
噛み締めるようにつぶやかれたそれに。
どんな感情よりもはやく、愛しさだけが募る。
「……わたし、も」
この場にいまあるものの中から愛しさ以外のものを取り除けば、きっと何も残らない。
そう言い切れるほど、愛しさでいっぱいになってる。
ただつないだだけの手を動かした莉央が、指をするりと絡めて恋人繋ぎにする。
その手に誘われて、ソファから身を乗り出すようにまたくちびるを重ね合ったあと。
「過ぎたもんは、もうしゃあねーから。
……これから先は俺がほかのヤツに渡さなかったらいい話だろ」
「……うん、そう、ね」
離さずにいてくれるの?と。視線だけで問う。
そのくせ返事を待つのが恥ずかしくて、晴れた空によく似合う臙脂の髪に指で触れた。
「離さねーし、誰にもやらねーよ」
「……うん。やくそくね」
「お前もな」
俺だけにしとけよ、と。
何も気にせず言い放つ莉央に、わたしの方が恥ずかしくなる。でもふたりきりのときにしか彼はこうやって言ってくれないから、素直にうなずいた。



