どうしてそんなに余裕げなの。
「もっと」とねだったことで密を増した空気の中。ロクな考えなんて、何も浮かばずに。
「南々瀬」
名前を呼ばれただけで、艶を帯びて深く聞こえる。
呑まれてしまうのが怖くて冷静になろうとゆっくりまぶたを持ち上げたら、莉央の手がそっと頭を撫でてくれた。
「悪い。ちょっといじめすぎた」
「な、っ……」
「だって、すげーかわいいから」
意味がわからない。
かわいいと思ってるなら普通いじめないと思うんですけど。
かわいいといじめることがイコールで結ばれるのを理解できなくて、思わず機嫌を損ねる。
もちろん本気で怒っているわけではなく。ふいっと顔を背けてわざとらしく拗ねてるだけ。
「……しらない」
「悪かったって」
「……いきなりキスしてきたくせにずるい知らない」
子どもかわたしは……
何をしたいのか自分でも分からなくなって、ぐるぐると頭の中で考え込むわたし。
その間に莉央は、何やらソファをするりとおりた。
それからおもむろに、わたしの前に屈む。
莉央に上目遣いされることがめずらしくて、胸の奥がキュッと鳴いた。
それだけで、もうすでに機嫌を損ねているフリをやめたくなる。



