◆ Side椛



「おはよ、莉央」



「重ぇよ」



リビングにようやく起きてきた莉央のソファの後ろに回り、肩に力をかけて腕を乗せるという迷惑極まりない行為に走る。

こいつ朝のテンションすげえ低いんだよねえ、と冷たい声を聞きながら、もう一度「莉央」と呼んだ。



「朝飯フレンチトーストでいい?

嫌ならほかに、なんかテキトーに作るけど」



「……お前に任せる」



「りょーかい。

おにーさん、イケメン台無しな顔してるぞ~」



皺の寄った眉間を指でつつくと、あからさまに嫌そうな顔をされた。

しかしまあ、どういう訳か莉央にそんな顔されるのはめずらしくねえわけで。




「お前はいっちゃん大好きだけどさ〜」



「、」



「……許容してやってもいいんじゃねえの?」



納得いかない、って顔してんな。

ずっと信頼してるいっちゃんのために、コイツはわざわざここに入って、今やロイヤル部の一員。



追い付きたかった相手のそばに、何の努力もせずに隣に並べる相手が突然現れたら、嫌だって気持ちはわかんなくもねえけど。

……いつかは、絶対そうなる。



「俺はいっちゃんも莉央のことも好きだけど〜。

あのお姫様のこと、嫌いじゃねえのよ」



絶対、彼女はまだまだ謎を抱えてる。

理事長が情報を一切与えてくれなかった彼女。そして、転校に"本人の意思"がなかったその事実。