「ああ、そうだ。

あいつら今日来ねーのは当たり前だからな」



「え、」



「俺が今日は来なくていいって言った」



なんで、とつぶやいたはずの言葉は、かすれて声にならない。

それでもくちびるの動きだけでそれを読み取ったらしい彼は、「なんでって、」と話を繋げながら、わたしたちの間にあった距離をつっと詰める。



「俺がお前とふたりになりたかったから。

……それ以外に、なんか理由いる?」



「ッ、」



「……どうせあいつらが役員なの分かってたし。

こうでもしねーと、お前気ぃ遣ってふたりきりになってくんねーだろ」




見透かすような瞳から、視線を逸らしたくなる。

たしかにわたしは、自分から進んでふたりきりになろうとしない。



それこそ、出会って間もない頃。

わたしは莉央に好かれてはいなかったし、今はそんなのも抜きで好きでいてくれてるのはわかってるけど。



緊張するから、付き合ってから不自然にならないように気をつけてふたりになるのを避けていたのは事実だ。

まさか本人に気づかれているとは思わなかったけど。



「つーわけで、今日は誰も来ねーから」



「っ……まって」



「無理。……好きな女とふたりきりになれるタイミングをわざわざ自ら捨てるヤツがどこにいるんだっての」



酔いそうだ。

普段はそんな甘いこと、言わないくせに。