椛にしてはめずらしく、簡素に紡がれる言葉。

耳に「触れたくてたまらない」ととろけるようなささやきが触れると、抵抗する気も完全に失せた。



「……南々瀬」



「っ、」



名前を呼ばれるのは、苦手だ。

どうしようもない気分にさせられてしまう。俺にちょうだいって言ってくれるけれど、わたしだって椛のことをひとりじめしてしまいたい。



「……好きだよ、南々瀬」



愛を知りたくて、あえて薬指に永遠を誓った女性に埋もれて、価値を見出そうとしていた椛が。

わたしだけを、好きでいてくれる。



それ以上に嬉しいことなんて、ない。




「……わたしも、好き」



今日何度目かの言葉を返すと、椛が優しく笑ってくれる。

それとは裏腹に熱を持った瞳が近づいて、それこそ"らしくない"強引なキスを受けながら、目を閉じた。



「……いろは」



「ん……、」



しっとり絡む指先と、深く重なるくちびる。

薄暗くした部屋の中で、煩わしそうに髪を掻き上げた姿が色っぽくて、本当にひとりじめしたくなった。



面倒見が良くてしっかり者のお兄ちゃんな椛も、こんな風にたまには感情を素直にぶつけてくれる。

その相手がわたしなら、いくらでも応えてあげたい。



【その4 騎士椛の場合】



甘すぎるくらいの、とある一夜。

翌朝には美味しい朝食を揃えてから起こしてくれる彼にわたしが惚れ直すことを、きっと椛自身は気づいていない。