ぴんぽーん、と。

ふたつの表札が並ぶ綺麗な三階建ての家のチャイムを鳴らす。と、『ちょい待ってて~』とゆるい彼の声で応答があった後、すこししてドアが開いた。



「いらっしゃい南々ちゃん」



春休み中にオレンジベージュからマットブラウンに染められた彼の髪。

それでも毛先にはグラデーションでその色が残っているけれど。



「おじゃまします。

誰もいないって聞いたけどさすがに手ぶらで行けないから、これ。いっしょに食べようと思って」



なんだか大人っぽくなった彼を直視出来なくて困る。

視線を逸らすようにしてずいっと渡したのは、白い紙箱。『Juliet』のロゴが入ったそれの中身は、言わずもがなふたり分のケーキだ。



「気ぃ使って欲しくねえからいいって言ったのに~。

まあいいや。俺もケーキ好きだし、あとでいっしょに食おう」



椛のお父さんと、ふたりのお母さん。

そして呉羽くんと双子ちゃんのみんなは、いま春休みの旅行に出掛けている。




本当は、椛もいっしょに行く予定だったらしいのだけれど。

春休みにロイヤル部で集まるという話が出ていたため、行かなかった。



……べつに、椛がいない時に集まるなんて、そんな嫌味なこと誰もしないし。

事実今日は集まることもなく、その椛のお家にお邪魔しているほど。



「椛、ほんとに一緒に行かなくてよかったの?」



綺麗な家の中。

仕切りを使って部屋を作ることができるらしい3階は3つ部屋があって、椛の部屋、呉羽くんの部屋、双子ちゃんの部屋になっていた。



ちなみに、"瑠璃と翡翠が大きくなったらその部屋も区切ってぜんぶで4部屋にする"、らしい。

わたしは一人っ子だから、そうやってちょっと嬉しそうに弟妹たちの話をする椛のこと、好きだけど。



面と向かってそれを言う勇気はないため、

さりげなく違う話題を引っ張り出してくる。



「別にいいんだよ~。

最近こっちで生活してるし一緒にいる時間増えたからねえ。……むしろ、」