「それじゃ不満か?」



見下ろされているのに、わたしが彼を見下ろしているんじゃないかと思う。それくらい穏やかな声だった。

首を横に振ろうとしたけれど、彼に両頬を包まれているせいでそれが叶わない。



黒い瞳を見つめて口を開こうと、薄く口を開いたその時。



「こんなとこで、

イチャつくのやめてもらってもいーっすか」



耳に届いたぶっきらぼうな声。

何度か聞いたそれは、臙脂の髪をした彼のもの。ゆるやかな牽制に先輩の手は離れて、馬村くんは心底めんどくさそうにわたしを見た。



「……言っとくけど、

俺はお前のこと信用してねーからな」



突き放すように、冷たい物言い。

なんとなく、わかってた。……この人はたぶん、わたしがロイヤル部にいることをよく思ってない。




「莉央」



いつみ先輩が、名前を呼ぶけれど。

彼はそんなもの気にしないとでも言うように、わたしたちが上がってきた階段をおりていく。すぐに姿は見えなくなって、目の前の彼がため息をこぼした。



「……、悪いな。

あいつにも、思うところがあるんだよ」



「はい。 ……大丈夫です」



返事すれば、彼が優しく笑ってくれる。

それから、2階の廊下を案内してもらった。



ここにあるのは放送室と、個人の部屋。

放送室に最も近いところがルノくんの双子の弟であるルアくん、その隣がルノくん、そのまた隣が馬村くんで、最後が椛の部屋らしい。



中は綺麗なワンルームマンションのようになっているらしく。

一応全室にお風呂からキッチンまでついているから、本来は部屋だけで十分生活できるみたいだ。