【おまけ】



ヴー……と深い音で振動するスマホ。

まぶたを持ち上げていない状況で突発的に動いた感情は、隣の南々先輩を起こしてしまうということで。



「はい……」



特に相手を見ることもなく電話に出る。

そこでようやく、隣の彼女の寝顔を見て、「ああ一緒に寝てたっけ」なんて思い出す。彼女を起こしてしまうからという理由で電話に出たのだから、いまさらではあるけれど。



『おはよ〜、るーちゃん』



電話越しに聞こえた甘い声色に、無意識に眉間を寄せた。

……最悪だ。 何が、って。



『卒業オメデトー』



この人に自分の行動を気づかれていることが。

卒業したのは俺じゃなくていつみ先輩と夕さんですよ、と噛みついてやりたい。どうせ俺がふたりきりなら"そうする"と分かっていたんだろう。




「おやすみなさい」



『おいおいこらこら、

邪魔しなかっただけマシだろ〜?』



どうせ邪魔しようとは思ってないだろうけど。

椛先輩なら本当にそのタイミングで電話してきそうだから怖い。うぬぼれでもなんでもなく、俺のことをルア以上に把握しているのは彼だ。



『幸せにしてやれよ〜』



何もかもわかったような口調が腹立たしい。

とは思いながらも文句を飲み込んで、さらりと眠る彼女の艶やかな黒髪を撫でた。



「幸せにできるかどうかはわかりませんけど……

間違いなく、俺はしあわせですよ」



電話越しに惚気れば、掛けてきたくせに舌打ちして電話を切る椛先輩に思わず笑う。

それからもう一度「しあわせ」と噛み締めるようにつぶやいた、春になりきれないとある日の朝。──たまには、こんな朝もいい。