「ゆ、びわ……?」
生徒会長の引き継ぎの参考書類に、そんなの書いて無かったわよ。
バッジとブーケを贈り合うだけの簡単な式だったはず。はやければ1分もかからない行事のはず。
なのに、どうして?
「……結婚しようか」
「っ、」
「今すぐに、とは言わねえけど。
……できるだけ早く、14年前の約束を叶えたい」
マイクを通さない声じゃ、彼が何を言っているのかはわたしとすぐそばのいくみさんにしか聞こえない。
なのにみんな理解したように、この場の成り行きを見守っていた。
当事者のわたしが、こんなにも、理解できていなくてパニックなのに。
「い、つみ、先輩……」
ど、うすればいいの。
さっきまであんなに悲しくて寂しくて仕方なかったはずなのに。なのに、今は、もう。
「返事は?」
愛おしさでいっぱいに、なってしまった。
おどろいて、思わず言葉を失う。
何も言えなくなって固まるわたしに「返事」ともう一度穏やかな声をかけた彼は。
するりと箱の中からそれを抜き取って、わたしの左手を掬うように持ち上げる。
薬指に、それがおさまったとき。



