転校してきたときは、思い出作りだからって。
ただそれだけで、賭けるようにロイヤル部に入ったけれど。
それぞれの傷に触れて。
差し出した言葉に、嘘はなかった。
ただ自分の抱えているものがあまりにも大きすぎて、どうすることもできずにいたけれど。
結局はこの場所にもどってきて、わたしは14年前に約束を交わしてくれた彼と新たな関係を結んでる。
ロイヤル部がなければ、わたしの両親はいつみ先輩がわたしを探していることにも気づかなかった。
だから。……だから、とても寂しいんだと思う。
『お前を今日から、ロイヤル部の部員とする』
いつみ先輩に言われた言葉が、脳裏を掠めた。
わたしだけが持つ、姫の称号。
名前だけで、強制的に引き入れたように見えて。
待っていた真実は案外優しくてあたたかかった。
いつみ先輩、と。
声を出すことなく、彼を呼ぶ。
今朝目が覚めた時、彼はわたしを抱きしめたまま眠っていた。
春と呼ぶにはまだ寒い気温の中、心地良い体温に包まれながら「おはよう」を告げて。
寂しい気持ちを隠すように身を寄せたけれど、彼はきっとそれにも気づいてる。
何も言わずに、いつもよりも少し長い時間、寄り添ってくれた。
「っ……」
これからも一緒に居られるのは、わかっているのに。
それでもやっぱり、すごく寂しい。
自分の問題が解決していない時は、平気で離れられるとさえ思っていたのに。
たかだか同じ学校に通えなくなるという事実だけで、目頭が熱い。
ドーム内の景色が、霞む。
プログラムの進行に比例するように、涙の気配が増す中で。想いと一緒に涙が零れてしまわないようにと、下唇を噛んだ。



