たまらず、傍観に徹する彼女……じゃなかった、彼を呼ぶ。
なんだこの人。何が言いたいのかは知らないけれどとりあえず甘い。というかその色気の放出はなんなんだ。
朝からそんなに甘ったるい色気をあてられるわたしの気にもなってほしい。
小さく息をついて彼を見上げたら、予想以上に澄んだアーモンドアイとばっちり目が合ってしまう。
「っ、近い……!」
「椛、そろそろ怒られるわよ」
「だろうねえ。
……でも、とりあえず俺のこと呼んでよ」
部員でしょ?とにっこり言われてしまえば、どう逃げることもできなくなるわけで。
仕方なく「椛」と小さく名前を呼べばそれで満足したらしく、よしよしと頭を撫でただけで彼は離れた。
何がしたかったんだ、本当に。
朝から人の精神を削りに来るのはやめてほしい。……いや、いつでも嫌だけど。
「あ、ちょっとそれずるい。
南々瀬ちゃん、あたしのことも呼んでー?」
「……夕帆先輩」
「いま、男子の"女の子からいきなり名前呼びにされることへの憧れ"をちょっとだけ理解したわ。
でもそんなのにこだわってる椛は小さい男ね」
「それに対して、
「ずるい」っつった姉さんも姉さんだと思うけど……」
「はいはい、おふたりとも一度同意したならそれでいいじゃないですか。
おはようございます姫川先輩。……あ、南々瀬先輩の方が良いですか?」
こてん、と。首をかしげて聞いてくれるのは、この中で一番年下のはずなのにしっかりしているルノくん。
何この子かわいい。王子様ってずるい。
「別に呼び方にこだわってはないけど……
ななせ、って言いにくくない?」



