「……俺が、どうして。
アイドルとしてデビューしたか、知ってる?」
「え?」
ずっと黙って、わたしの話を聞いてくれた夕陽。
政府だとかバイオだとか、わたしたちには桁違いで分からないことばかりだけど、彼は目を逸らさずに聞いてくれた。
当事者のわたしだって、まだわからないことばかりなのに。
ただただ、最後まで話を聞いてくれた。
「俺、元々は役者になりたくて事務所入って……
でもアイドルを勧められてて。ほんとはずっと、アイドルはやりたくないって断ってた」
「そうだったの?」
……知らなかった。
わたしの知ってる夕陽がNANAとして活動している時は、キラキラしたアイドルだったから。
「馬鹿みたいな話なんだけどさ……」
テーブルに両肘をついた夕陽が、両手で顔を覆う。
困ったように零された声は、小さくなって。
「……ちょっとでも、はやく、テレビに出るようになれば。
ナナが、画面の向こうで見てくれてるんじゃないかなって」
「、」
「どこにいるかわかんないし……そもそも向こうでこっちの活躍なんて見れるのかもわかんないけど。
それでも……ナナが俺に気づいてくれたらいいなって。そう思って、アイドルでデビューした」
「夕陽、」
「だからほんとは……兄貴に、強引に八王子まで連れていかれて、ナナに会ったとき……
頭の中真っ白になるぐらい驚いたし、」