「……姫ちゃんのこと?」
マグカップをふたつ、テーブルに置く。
いつみはただ冷静に「ああ」とだけ答えて、でしょうね、と小さく心の中で笑う。
だっていつみは、彼女のためにしか動かない。
ましてや、本当に嫌いじゃなくとも普段は嫌そうな顔で相手をするわたしを頼りに来るということは、間違いなくそのためだ。
「……あいつの家の話」
「ごめんね。それは話せな、」
「もう知ってる」
「、」
出てきた言葉に目を見張る。
知ってる、って、なんで。まさかあの子が自分からいつみに家の話をしたとは思えないし。
「まあ、知ってるって言っても。
あいつの両親がバイオの研究者で、珠王の施設で働いてるっていう最低限のことしか分かってない。……ただ、政府が秘密裏に何かを動かしてる」
「………」
「政界の上の方の人間しかあいつの名前を知らないってことは、そうだろ」
……これ、は、もう。バレてるも同然ね。
隠したって意味ないかと、薄くため息を吐き出す。
「その詳細についてだ」
「……わかった。話すわ」