◆ Sideいくみ



──ピンポーン、と。

深夜2時にベルの鳴らされる職員寮の一室。誰よこんな時間に、と一瞬思ったけれど、ほかの教職員と揉め事になるのも面倒だ。



「はーい」



小さくそう返事して、ドアを開ける。

隙間から顔を出せばよく知る相手。というか。



「え、いつみどうしたの?」



この学園内で、唯一のわたしの血縁者。

理事長秘書になってから、いつみがわたしの元を訪ねてきたことなんて数少ない。しかも職員寮まで来たのなんてはじめてだ。……というか。



「どうやって入ってきたの?

職員寮のキー……って、そうだった」



いつみの持つカードキーは、学園に2枚しかない特殊なもの。

どこの棟にも入ることのできるカードで、セキュリティレベルが高くても入ることのできるそれ。つまり1時を過ぎるとロックのセキュリティレベルが引き上げられる職員寮でも関係ない。




問題は。

どうしていつみがわたしの元を訪ねてきたのかってことで。



「……いま忙しいか?」



「いや、ううん。いいけど」



ドアを開いて弟を部屋に入れる。

この時間に生徒を部屋に入れたなんて知られたら問題視されそうだけど、弟だし。



「そういえば、体調なおったの?」



「……ただの風邪だったからな」



コーヒーを淹れながら思い出すのは、数日前の体育祭の日のいつみ。

あの日は調子が悪くて最後までもたなかったみたいだし、数日顔を見なかったから心配していたけど、いま顔色を見る限り大丈夫そうだ。