「だから俺は、

はじめからお前で間違いないって言った」



「………」



「だってフルネーム知ってるからな」



当たり前だ。

フルネームを知っているなら人違いだなんて思わない。というか、姫川南々瀬で同姓同名なんて早々いないと思う。



「でも、正解だったな。

実際にお前は俺のことも約束も覚えてなかった」



「あ、う……すみません」



どうしよう。

この人がくれる愛情の大きさをいまさら知って、こんなにも胸がいっぱいで。




「いいんだよ。怒ってねえし。

……それに約束もちゃんと叶えたしな」



「あ、りがとう、ございます」



愛おしすぎて、苦しい。

変わらなかった先輩の気持ちが、嬉しい。



「……全部解決するまで、もう少し待ってろ。

そしたら改めて、お前のこと迎えに行くから」



「……はい」



ぎゅっと彼の服を握る。泣きすぎてひどい顔だったかもしれないけど。

小さく笑みを零した先輩が、そっとキスをくれて。



お互いに「好き」を囁き合った後、「今度こそ忘れるなよ」って彼はいたずらに笑ったけれど。

14年分の愛がこもったこの日の「迎えに行く」という彼の約束を。──二度と忘れるわけがない。