おかしいと思った。
幼い頃一度だけ顔を合わせた相手を、今も好きでいるなんて。現実的に考えてそんな話ありえないんじゃないかって、そう思った。
違った。……違ったの。
「……言ったらお前の気持ち急かすだろ」
「っ、今日がなかったらわたしっ……
なにも知らないまま、ここを離れるつもりでっ、」
「だから今日捕まえた。
それにどっちにせよ、お前のことはどこまでも迎えに行ってやるつもりだったよ」
掻き乱されて埋もれていた記憶。
すべて思い出したわけじゃないけれど。14年前、わたしは両親と確かにパーティー会場にいた。
そしてその日。
あなたと約束を、交わしてるの。
わたしはその頃、忙しい両親に代わってお手伝いさんに育てられていて。
でもその日は特別で。めずらしく両親と一緒に出かけられる日だった。だから浮かれていたのに、大人同士の話には混ぜてもらえない。
それがつまらなくて、部屋を抜け出した。
両親と一緒にいられなくて寂しくて泣いてたわたしに、男の子が声をかけてくれた。
「いつみ先輩、」
大丈夫だよって優しくしてくれたその子は。
寂しがっているわたしのために、約束してくれた。
『ひとりにしない。絶対迎えに行く』って。
「どうして、ですか……
あんなの、子ども同士のふざけた約束みたいなものじゃないですか……」
ごしごしと袖で涙を拭って、先輩を見上げる。
それでも、涙が溢れてしまいそうだった。14年越しに約束を叶えてくれたことを知ったのに。14年の年月を経て想いが通じ合ったのに泣くななんて、そんな。



