「……はっ。

俺の見立てはそこまで甘くねえよ」



じゃあな、とためらいなく電話を切る先輩。

返されたスマホをじっと見つめてからポケットに片付けると、「そろそろ集合だぞー」と先生の声が遠くから掛かった。



「え、もうそんな時間」



「みたいだな」



20分ってはやい。

慌ててすでに冷めているココアを飲み干し、缶をゴミ箱に捨ててもどってくる。



ホテルまでは遠くないからと、徒歩だ。

先生たちが人数のチェックを行う中、みんなはもう、これから食べられる豪華ビュッフェの話を楽しそうに交わしているけれど。



クラスメートの中に、ちらほらとほかのクラスの生徒や先輩後輩なんかがいるのは、不思議な気分だ。

そして何より、いつみ先輩が一緒にいることも。




「……先輩」



「ん?」



「風邪引かないでくださいね」



そろりと、彼の手に触れる。

冷たい手をあたためるように両手で握ると、絡む指先。共有した温度が調和されて同じくらいになった頃、集団でホテルへ向かって歩き出した。



「せっかく優勝譲ってもらったんだろ。

後悔しないぐらい楽しめよ」



「……そうですね」



こくりとうなずいて、きゅっと繋いだ指先に力を込める。

後悔しないぐらい楽しもうと思う。──先輩とふたりきりでいられる時間なんてもう、数えるほどにしか、残っていないんだから。