転校して5ヶ月。
夏場はシャツの胸ポケット。いまの季節はブレザーの襟。ロイヤル部のみんながつけているそれ。
わたしも同じようにつけているのが、
もうとっくに当たり前になっていた。
『まーまー落ち着いて。
いつみはどうせ言わないだけでデートだと思ってるから』
「……、用件はなんですか」
『んーとねー、いつみに変わってくれる?』
「え? ……いつみ先輩。
夕帆先輩が、いつみ先輩に変わってほしいって……」
それならはじめから先輩に掛ければいいのに。
どうしてわざわざわたしを経由するんだ。べつに迷惑だとは思わないからいいけど。
「なんだよ。
……あ?ああ。んなこと言われなくても分かってる。そんなことで電話してくるなよ」
……なに話してるんだろう。
向こうの声が聞こえないから、先輩が何に対して不機嫌なのかがまったくわからない。
「逃すつもりなんてねえよ」
ばっちり。
上げた視線が絡んでしまい、漆黒の瞳に囚われる。
電話中だから口を挟んで邪魔することもできず、じりじりと頰だけが熱を上げていく。
逸らしたいのに、逸らせない。
「何のために今日まで待ったと思ってんだ」
電話しているんだから、夕帆先輩にそう言ってるのに。
まるでわたしに言い聞かせるような深い声色に、また鼓動が乱れる。感情が、かき混ぜられる。