「失礼しま、」



「──調子乗ってんじゃねえぞ、クソガキ」



コンコンと、小さくリビングの扉をノックして。

扉を開けた瞬間、聞こえた地を這うような低い声。そしてソファに片足を乗せて、騎士くんの胸ぐらを完全に掴み上げている女王先輩。



……なにこれ修羅場?



「、」



失礼しますと言いかけた声も遮られて、完全に動けなくなる。

胸ぐらをつかまれている騎士くんはへらっと笑って、「姉さん姫来たよ?」なんて言ってるけど。……正直とても気まずい。



思わずこのまま逃げようかと思ったけれど、振り返った女王先輩の碧眼に捉えられて逃げられなくなった。

ま、真顔が怖いんですけど……!




「あら、南々瀬ちゃんいつ来たの?」



「え、っと……いま、です」



「そうだったの。騒がしくてごめんなさいね」



パッと、彼の胸ぐらを離す女王先輩。

とてもにこやかな笑顔で話しかけてくれるのは構わない。構わない、けど。



……さっきのあの低い声って、女王先輩ですよね?

しかもあきらかに、女性が出せるような声域じゃなかったんですけど。どう頑張ってもそんなに低い声なんか出ないんですけど。



「姫川先輩。

……夕さんは、正真正銘男ですよ」



状況がわからない上に、どうすることもできずに立ちすくむわたし。

ルノくんが助け舟を出すようにそう言ってくれたけれど、理解しきれなくて薄くグレーのかかったブラウンの瞳を見つめる。……いま男って言った?