っていうかこれって、ただ単にホテルのビュッフェだけでもよかったんじゃ……
まあ、先輩と一緒にいられたのは確かに楽しかったけど。
離れなかった恋人つなぎと。
知らないうちに先輩がわたしに合わせてくれていた歩幅と歩くスピード。
向けられる、優しい視線と声。
それらのすべてがデートの疑似体験をさせてもらったみたいで、本当に楽しかった。
ひとつ贅沢を言うなら、本当に恋人であれば幸せだったのに。
わたしのせいで叶わないわがまま。
……だから絶対、先輩には言えないけれど。
せめて先輩も同じように思ってくれていたら嬉しいな、と思う。
「肌寒いだろ。ブレザー貸してやろうか?」
「っ、それだと先輩が着るものないじゃないですか……
また風邪引いたら受験に影響するのでやめてください」
大丈夫だよって先輩は言っているけれど。
本当に心配だからと断れば、彼は冗談なのか本気なのかわからない笑みでふっと笑う。
歩いてきたから今は寒くないし、先輩がホットココアをおごってくれたから余計に大丈夫なのに。
心配性な先輩が「寒かったら抱きしめてやるよ」なんて言うせいで、また甘さが戻ってきてしまう。
「い、いいです。寒くないので」
「お前もこの間風邪引いてただろ」
「そ、れは」
先輩と一緒にいたのが原因のような……
っていうか、それを言われると断れなくなる。でも何が何でも彼からブレザーを奪うわけにはいかないし、と断っていたら。
「なら、せめてこっち着とけ」



