先輩の、あたたかい匂いが好き。
眠いと言ったわたしのためか、彼の手がそっと頭を撫でてくれる。そろりとまぶたを持ち上げてみたら、優しくわたしを見下ろす瞳と目が合って。
「……眠いなら寝とけよ」
ふっと笑って言われたそれが、あまりにも優しいから。
すごくすごく好きな気持ちにさせられる。
本当に彼女として一緒にいられたらいいのに。
時間は、無慈悲にも止まってくれないから。
「……いつみ先輩」
「眠いんじゃねえのかよ」
ふたりでいる時間が、切ない。
好きなのに。……別れが迫ってることを知ってるから、馬鹿みたいに、切ない。先輩にどれだけ甘い言葉を囁かれても、いつだって切なくて。
「……ホテルのビュッフェ、楽しみですね」
当たり障りのない話を選ぶ。
彼の手は未だに、わたしの頭を撫でたまま。
「あ? ……ルノとルアに言ってみろよ。
あいつらお前のためならいつでも連れていってくれるだろ」
「……一緒に来てくださってありがとうございます」
「、」
「……まあ、まわりに乗せられたんですけど」
それでも良かった。
まわりが作った状況に流されるようにしていつみ先輩を誘ったけど。……そう言い訳しなきゃ、先輩と一緒に行きたくても、誘えなかっただろうから。



