「………」



だめだ。

先輩を盗み見たら触れたくなる。夕帆先輩の"デート"って言葉が頭をぐるぐる回ってるせいで、余計に踏み出してしまいたくなる。



「……で、

結局のところ付き合ってんの?」



そう言っていちばん後ろの席に座るわたしを振り返ったのは、その前の座席に座る大和。

その隣がみさとで、無言で差し出してくれたお菓子を受け取るけど。この子なんでお菓子持ってるの。絶対遠足気分で来てるでしょ。



「……付き合ってない」



「付き合ってないのにキス、ねえ」



探るような目を向けられて、「あれは違うの」と言い訳がましく口にしてみたけれど。

自分でも何が違うのか、よくわからなかった。




「俺のときは、

付き合う前にキスとか絶対許さなかったくせに」



「……ちょっと黙って大和」



先輩の前で過去の恋愛話を掘り返さないでほしい。

案の定先輩は不機嫌そうにオーラを放ってるし、そんなことに嬉しくなるわたし。ほんと、ふざけてる。



……っていうか、あれは何のキス?

体育祭の朝に泣きじゃくったこともあって、色々終わるんだと思ってたのに。



先輩はごく平然としてるけど。

わたしは未だに、答えの出ないそれに悩んでる。



「……いつみ先輩」



彼を呼べば、返事してくれる。

まったくもってそんなことはないのに「眠いです」と言ってみたら、「着いたら起こしてやる」なんて肩を抱き寄せてくれて。まるで先輩に寄りかかるみたいに身を寄せて、目を閉じた。