はじめは、自分の気持ちが先輩にバレたのかもしれないという焦り。
けれど彼がそれ以上何も言わないのを見て、鼓動が早鐘を打っているはずなのに落ち着いていく。
なんだろう、これ。
この……えも言えぬような、変な、ざわめき。
「……体調を崩してるからですよ。
ただ単に、熱で惑わされて夢を見ただけです」
「南々瀬」
視線はまだ頼りないくせに。
わたしを呼ぶ声はいまだって絶対的で。
ああそうだ、わかった。高揚感、だ。
バレちゃいけない。好きとは言えない。なのに、このまま先輩にわたしの気持ちがバレてしまえばどうにかなるんじゃないか、って。
できもしない、都合のいいこと。
自分勝手なわたしの、そんな、妄想。
ふっと息を吐いた先輩が、上半身を起こす。
わずかに自分の髪をくしゃりと乱すその姿が、色っぽく見えて。目が合った瞬間。──囚われる。
「せん、ぱ、」
目の前のこの人しか見えない。
身を寄せた先輩がわたしの膝を乗り越えて手をつくせいで、逃げられなくなる。後ろに下がればいいのに、この熱っぽい視線から逃れられない。
朝の一件があって、わたしは泣いたのに。
……もう、触れて、しまう。
拒めるわけなんてない。だって好きなんだから。
言えなくとも好きで、だめだとわかっていても、受け入れてしまいたくて。
まぶたを落として、吐息が重なる。その瞬間。
くちびるが触れる寸前に耳に届いたのは、「キャー!!」と、唐突につんざくような女子の悲鳴。



