「やっぱり、
南々瀬の家のこと知らなきゃ無理じゃね?」
「政界のおえらいさんたちが、
おもわず顔青くしちゃうような相手だもんねぇ」
何度話してもこうして振り出しに戻る。
俺らの中で今ネックになっていることは、彼女の中に隠された秘密ただひとつだ。
「……あ、いくみ」
ちょうど。
通りかかった理事長秘書を呼べば、一瞬不思議そうな顔をしてからそばまで寄ってくる。どうしたの?と首をかしげる姿はただただ美人でしかない。
「いくみって。
南々瀬ちゃんのこと、色々知ってるのよね?」
いくみは性格に難アリってほどじゃない。
だから今となっては重度のブラコンでいてくれてよかったと思う。……まあその重度のブラコンに俺もヤキモキしてる時はあるけど。
「夕帆。
姫ちゃんのことを知りたいなら、今はだめよ」
そうはっきり告げられて、眉間を寄せる。
今はダメって、それじゃあ、一体、いつ?
「でもそれじゃあいつみが、」
「いつみがそう簡単にあきらめると思う?
……幼い頃から探し続けてきた"姫ちゃん"をようやく見つけたのに、逃すわけない」
くすり。不敵な笑みを浮かべるいくみ。
ゆらゆらゆらゆら、脳裏で何かが揺れる。
「だいじょうぶ。
だってあの子は……優秀な、珠王の跡継ぎよ」
自信ありげに口角を上げるいくみ。
その言葉の意味を知った時。──この世界は、目に見えない形で、大きく変わる。



