ちょ、ちょっとまって……!

まって。ほんとにまって……!



『まあ。

南々ちゃんは、俺の気持ち知ってただろうけど』



彼がそれでもなお、話すから。

また周りはそれを聞き逃さないように静かになって、その静寂が痛い。心臓が早鐘を打って、どうしてこのタイミングなんだと椛を恨みそうになった。



どうして。

どうしてこのタイミングで、真剣に言うの。



『ごめんずるくて。

……好きだよ。誰にも渡したくない』



ざわざわと、落ち着かない熱気。

進行役の彼は面白がったかのように、『ズバリその返事は?』なんて言いながら椛から返されたマイクを渡してきて。……何が"ズバリ"よ。



ざわめきはあるけれど。

わたしの答えを逃すまいと、静かなグラウンド。




「、」



ちらりと視線が本部テントを向く。

だけどいつみ先輩の姿はここからじゃ見えなくて。



『……ごめんなさい』



マイクを通したわたしの声が、響く。

ここで『はい』と答えていれば、それはそれは盛り上がったんだろうけど。わたしの好きな人は、ここから見えないいつみ先輩ひとりだ。



『言ってくれてありがとう。

……応えられなくて、ごめんなさい』



この場で真剣な告白をしてきたことには驚いたし、恥ずかしいけど。

あえて椛がこの場で言うことを決めたなら、ちゃんと返事しなきゃいけないと思った。



だから羞恥心をこらえて、そう返せば。

彼はちょっと困ったように笑って、わたしの頭を撫でたから。体育祭にそぐわないしんみりとした空気が、あたりに流れてしまって。