……そういえば、確かにここ最近のいつみ先輩は調子が悪い。

ルノの婚約者の話の時も、まさか手ぶらだとは思わなかった。風邪を引いているみたいでマスクをしてるけど、その前から調子が悪い気がする。



「南々先輩。……奪っていい?」



「へ、」



「もう敬語使うの疲れたから。

っていうかいつまでも年下にしか見てもらえないのも腹立つから。……ちゃんと迫ろうと思って」



意味がわからない。

っていうか恥ずかしいから耳元で話さないで。なんだか背筋がぞわぞわするから嫌だ。



「南々先輩。……好き」



ちゅ、と。

一瞬だけ耳に、くちびるが触れた。その瞬間大げさなぐらいに肩が跳ねるのに、さらに息を吹きかけてきたルノのせいで、顔が一気に赤く染まる。




「っ、なにして……!」



っていうかもうこの子やだ。

なんで急にこんなにも対応が変わるの!?この子はいったい何がしたいの!?



「顔赤い」



「誰のせいだと……っ。

っていうかそう!本部テント行くんでしょ!」



慌ててルノの腕を振りほどく。

楽しげに笑う姿は前まで見られなかった貴重な表情ではあるけれど、こんなに甘ったるい対応ばかりされたらわたしの心臓が本当にもたない。



「そうですね、行ってきます。

それじゃあまたあとで。南々先輩」



まるで語尾に音符マークでもつけてるんじゃないかってほどご機嫌に。

そう言ってわたしを散々惑わせたルノは、やっぱり経費を使い間違えている金の箔押しがされた黒の扉をくぐって、外に出ていった。